バーチャル・リアリティは人間の感覚器をコンピュータの側に引っぱってくるという思想でできていて、人間の五感をコンピュータにプラグ・インすることを究極の目的としている。これに対して4次元コンピューティングはコンピュータに直結されたセンサを人間を含めた時空間に持ち込み、実世界のデータをリアルタイムで処理して結果を人間に伝える。最終段階では仮想現実感の技術が使われるが、コンピュータと人間の関係がだいぶ違っていることがわかる。事情通は、それはリアルタイム・コンピューティングと同じではないかと言うかもしれない。 確かに、リアルタイム処理は時間を重視した計算処理の形態だが、空間の取り扱いが逆に貧弱である。スカラか1次元世界を扱うのがせいぜいであった。そこで、4次元コンピューティングである。こっちは空間も3次元そのままで取り扱うことを重視している。 しかし言うは易し、行うは難しである。仮に256×256×256という3次元空間サンプリングを毎秒30フレーム時間方向にもサンプリングすると、データのスループットは毎秒480メガ・ワードとなる。スケール・ダウンしても100メガ・ワード程度は必要である。
これだけのデータを扱えるCPUはスーパー・コンピュータだけである。もっと深刻な問題は、4次元空間をサンプリングするセンサ・システムである。物理の常識として位置と時間の不確定性があり、位置を正確にサンプリングしようとすると時間が正確にサンプリングできなくなる。 どだい、3次元空間をサンプリングでくる測定器なんてのはCT装置ぐらいのものである。これは確かに256×256×256のサンプリングが可能だが、時間は分のオーダでかかる。「4次元コンピューティング」はなかなか手ごわそうな相手である。
さて、こんなたいへんな世界は私の及ぶところではなかろうと思っていたら、突然隣の医学部から「4次元データ」の実物を持ち込まれてしまった。これまでも脳外科の連中には脳味噌のレンダリングとか頭の切り出しなどに協力していたが、今度は循環器内科からだった。 何でもMRE-CT(核磁気共鳴映像法)にフラッシュ・モードというのがあって、これを使うと心臓のように動く臓器でも20ms程度のストロボで3次元サンプリングができてしまうのだそうだ。ともかく、そうして採取した4次元データ、といっても256×256×8×20程度の粗いものだが、4次元は4次元でありデータ量も30Mバイト近い。
さっそく、ボリューム・レンダリングで画像化してみる。なにせ元のデータのサンプリングが粗いから補間に補間を重ねるわけだが、考えたら内臓というのは一般には表面はつるっとしているのが自然だから補間しても不自然にはならない。あれやこれやで、我が研究室の秘密兵器IRIS-4Dを2時間ブン回してアニメーションを作ってみた。さてその結果であるが、これが感動ものだった。当たり前だがコンソール上で心臓が動いている。持ってきたデータを見たときは、これでは大した画像にはならないと思ったが、そこは4次元。元のデータが多いだけに部分部分の信頼性は低くても全体ではそれなりの意味があるという所だろう。
まだ、4次元データの採集には1時間以上かかるので、そう頻繁にできることではないが、1時間はたった3,600秒であるから、MRI-CTを「3,600倍」速くすれば完全な4次元サンプラになるのである。これは見通しがありそうである。MRIがだめなら超音波という手も残っている。 しかし、レンダリングに2時間もかかるのではバランスが悪い。IRISは30MIPS+4MFlops、これを3,600倍すると15GFlopsくらいいる。この速度は最高速度のスーパー・コンピュータで現在でも実現できているが、オンライン蜒潟Aルタイムで使うには相手が大きすぎる。
なにか実現の可能性のあるデバイスはないかと思っていたら、これもお誂えのものが発表された。なんとシングルチップ・スーパーコンピュータ。1個で200MFlopsオーバである。話半分(普通はそうである)でも100MFlopsがワンチップでできるわけだから、これを150個も並べれば15GFlopsは実現できる。恐ろしい時代になったものだ。 このリアルタイムMRI-CT+ボリューム・レンダリングを4次元コンピューティングの入り口とすれば、これはあながち夢でもない。まじめに研究を始める価値のあるテーマなのだとわかってきた。少しは酒でも飲みながらフィージビリティ・スタディを始めようと考えている。
さて、そんな4次元MRI-CTができたら最初に何をしようか?女の子を中に入れようなんて不謹慎なことは私は絶対考えません.