時代はノマデイック・コンピューティング

米国新大統領の就任式が終わって既に100日が経ち、またぞろ米経済摩擦が
新聞紙面を賑わす今日この頃である。貿易問題といえば条件反射的に連想
されるのが「米」問題。そのくらい日本という国は農耕民族的発想で運営
されているのかもしれない。米問題はさておき、今時の業界では
コンピューテイングスタイルの新しいキーワードとしてノマディック(Nomadic)
という形容詞が話題になることが多い。ノマディックとは遊牧民を意味する
Nomadoの形容詞で、ノマディック・コンピューテイングを直訳すれば
「遊牧的計算機環境」となる。だからといって馬に乗って計算機を使うと
いう意味では無い。

昨年末頃から一般マスコミ等でマルチメデイアコンピュータや端末に関する
イメージビデオや写真が紹介される事が多くなっている事に皆さんも気がついて
いると思う。例えばAT\&TのHOBBITやAppleのNewtonである。写真やビデオ
に出てくるこれらのマシンにはことごとくケーブルがついていない。
手元にあるNewtonの写真にもケーブルはいっさい写っていないし、HOBBIT
のビデオに至っては空港の待合い室でTV電話として使ってるにも関わらず
電話線にすらつながっていない。ケーブルの制約から解放され、自分の行動
する所にはいつでもコンピュータがついてくる、そういうコンピューテイング
スタイルを提唱しているのである。
これらのPRフィルムは単に商品企画のプロモーションを越えて、一つの
ライフスタイルを提唱しているとも読み取れる。

単に携帯できるコンピュータというなら、ずっと昔からポケコンやノートPC
といったものがあったが、ノマデイック・コンピューテイングで想定している環境
はそれらで実現できるものではない。私もその手のマシンが出たときには
ことごとく手を出して、ことごとく捨ててきている。ダメだった理由は二つ
ある。一つは携帯マシンは余りに非力でそれだけでは自分の仕事を
全てこなせないこと、もう一つはメインのマシンの情報を携帯機に「コピー」
して移動する必要があることである。確かに携帯マシンで出来る範囲の部分を
コピーして移動先で処理し、帰ってから元に戻せばいいような物だが、
一旦2つに分かれデジタル情報はどっちがマスタかわからなくなるのが
積の山である。かくしてノートパソコンは場所を取らないデスクトップ機と
して余生を送る事となる。

ポータブルマシンはどうしたって据置型のマシンより非力になるが、ポータブルマシン
だってネットワークでマスタデータを操作できるようになっていればコピーの
発生を避ける事ができる。データベースだって常に最新のものが参照できる。
変に計算能力のあるノートPCよりはネットワーク接続された
携帯マルチメデイア端末の方が使いようがあると思われる。
常時ネットワークと接続された携帯型端末による個人情報化環境、それが
ノマデイックコンピューテイングのイメージなのである。

ノマデイック・コンピューテイングを実現するためのハードウェアの
要素技術は携帯のための小型化技術、省電力技術とネットワーク接続
するための移動体通信技術、そしてマルチメデイア機能を実現するた
めの超高速CPUである。ソフトウェアという大問題もあるが、それは取
りあえず触れないでおこう。

これらの要素技術の中でいちばん問題だと
思われるのは移動体通信技術だと思う。音声程度なら携帯電話が既に
あるぐらいだからさほど問題はなさそうだが、使い物になるネットワーク接続
という意味では10Mbps級の容量が必要で、遠からず現在の移動体通信の
ためのインフラ資産を作り直さなければいけなくなるだろう。
移動範囲が国内だけというのも余りに了見が狭い。
それを見越してか、遊牧民族国家の代表選手アメリカは次世代移動体通信
メカニズムとして「イリジウム構想」を着々と進めているようである。
イリジウム構想とは低軌道で地球を周回する66個の通信衛星を使って
地球上の全ての地点間で通信を可能にする通信メカニズムである。なぜ
イリジウムかというと、最初に構想を練った時には77個の衛星が必要と
考えたため、原子番号77のイリジウム{\rm (Ir)}から名前を取ったと
いうことらしい。地球が原子核でそれを周回する通信衛星が電子という
イメージで、なかなか上手いネーミングである。
その後の検討で66個ですむ事になったが、原子番号66はジスプロシウム
{\rm (Dy)}で知名度もなく語呂も悪いというのでイリジウムのまま行くこと
となったらしい。


ノマデイック・コンピューテイングの発想は馬を車に置き換えた米国社会
には自然な成りゆきなのだと思う。さて、われわれ農耕定住民族はこれに
どのようなコンセプトで立ち向かうか、作戦を練ろうではないか。

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(c) Tsuyoshi Yamamoto