情報は北アイルランドを目指すか.....

ひょんなことから1週間ほど北アイルランドのベルファストに滞在することとなった. 日本で聞く北アイルランドのニュースといえばテロ事件ばかりなので かの地から講義の依頼がきたときはさすがの私も少なからずびびった. 治安の問題とイギリスの食事は口に合わないという理由をつけて もったいぶって見たが,誘ったほうに言わせると「たしかにイギリス料理はまずい. が,アイルランド料理はイギリス料理とは別物だから食べ物の問題はない. 治安に関して言えば.ベルファストでは確かにテロ事件があったが,そういう事が 起こる場所は決まっているからそこに行かなければ絶対安全.それに比べて ロサンゼルスは所構わず戦闘状態にある.従ってベルファストの方がアメリカの 大都市よりははるかに治安がよい」とのこと.理にかなった説明に私の好奇心 もうずきだし,ゴ−ルデンウイークを使ってのベルファスト行きとなった.

本来の目的はこちらのアルスター大学での講演なのだが,加えてアルスター大学が中心 となって進めているマルチメデイア関連のプロジェクトと連携できないかという 誘いもある.

マルチメデイアといえば気になるのが情報インフラだが,ここには日本と同等以上の 情報環境がある.大学にはSuperJANETによる高速インタ−ネットが提供されている し,Ulster大学も4キャンパス間を2Mbpsでつないでいる. ちなみに我が北大の函館-札幌 間はたったの192Kbpsしかない. 民間でもインタ−ネット接続サ−ビスを 提供する会社(Genesis Project Ltd.)がすでに存在している.IRAのテロ騒ぎのため か,発展途上国的イメ−ジを持たれがちだが,ここはれっきとした英国なのであって 英国本土と同等のインフラがある. 当然ながら英語が母国語だからソフトウエア 関連情報は米国と時差なしで入ってくる. 北アイルランドは全体でも高々150万人の 人口であり,中心となるベルファストでも30万人しかない. そこに学生数1万人規模 の国立大学が2校あり,教育水準もヨ−ロッパの水準を遥かに上回っている. それでいて平均賃金が低いから製造拠点として世界中から企業が集まる事となる. 情報産業として面白いと思ったのは,イギリスの電話番号案内センターと英国航空 の予約センターがベルファストにあることである. 世界中どこから英国航空の予約 を入れても結局ベルファストに集められてそこで答えるしかけである. 私がフライト を予約した時も結局ここにつながっていたのかと思うと,なかなか感慨深いものが ある. 電話回線のコストを加えても人件費が低いのでメリットがでるということ らしい. 人件費に関してだけ言えばアジア・アフリカ圏にもっと低いところが いくらでもあるが,英語が母国語という所に大きな違いがある.

英語が完ぺきで教育水準が高く人件費が低いとくればソフトウエア産業にもってこい である. そこでここでもこれまでの製造業志向の企業誘致からソフトウエア志向 に方向転換を図っているらしい.特にマルチメデイアソフトウエアに関して 少なからぬ関心を持っている.こちらのソフトウエア業界のセミナーに招かれ 色々なプロジェクトの話を聞かされたが,教育用マルチメデイアタイトルの 開発に熱意をもって取り組んでおり,その開発拠点とし教育ソフトウエア 開発センターが組織されている.アルスター大学でのマルチメデイアプロジェクト も多くは教育とからんだもので,その分野にはかなり自信をもっており,積極的な 売り込みを受けることとなった.私に売り込まれても困るのだが,その熱意には 頭が下がる.

小中学校教育にコンピュータネットワークを取り入れる計画も 既に始まっている. 日本でも同じような計画を聞くが,こちらでは以前から 小中学校を交えたネットワークが既に存在している.CAMPUS2000と名付けられた このネットワ−ク,英国のNTTであるBTが中心となって各国の国際電話会社の 協力のもとに全てのカテゴリの教育機関が参加している. 日本もちゃんと 入っていてリストを見せてもらうと,なんと北海道にも参加校があるではないか.

仕掛けは単なるパソコン通信のようだが,飛び交っている言語が英語,仏語,,独語と ばらばらな所がすごい.これでは議論にならないと思うのだが,ヨーロッパ圏では ある程度の年代になれば2か国語ぐらいは話すのが普通であり,かりに話せなくても もともとボキャブラリはかなり共通なので意味は通じてしまうらしい. だから英語での問いかけに仏語で答えてもそれなりに議論が成立するのだそうだ. この点,日本を始めとするアジア圏諸国は大変である. 国際ネットワークを作ること は出来ても肝心のコミュニケーションができない.

最近の欧米の大学の一般的傾向として具体的なビジネスに大学が深く係わる事が多く なっている. ここの名門大学であるクイーンズ大学ではQUBIS(Queen's University Bussiness Incubation System)という学内企業インキュベータシステムを持っていて 大学内に会社が設置できるようになっている. さらに企業誘致や活動支援のために 北アイルランド工業開発庁,通称IDBが積極的に活動しており,産学の協同事業にも 積極的な支援を行っている. わたしも滞在中に 随分お世話になったこのIDBなる組織,初めて聞いた時は北海道開発庁のような 役所かと思ったが,北アイルランドを独立国として考えると通産省,外務省,科学技術 庁をま一つにしたような役所で,東京にもオフィスがあるので,興味のある方は尋ね てみると良いかもしれない.

これだけ条件が揃っているのだから情報産業がこぞって集まってきて不思議はない. とは言うものの,やっぱり恐いテロ騒ぎである. IDBの人いわく,「取材に来る ジャーナリストは『聞いているほど治安は悪くない』というのだが,出来上がった 記事を見ると町中で銃撃戦をやっているようになっている.そう書かないと記事に ならないのでしょうがない」と,半ば明らめの境地である.ちなみに今年に入ってから 4か月でテロの犠牲者は20人を数えるそうだが,米国で銃がからむ死者数は年間1万人を 越える. どっちが恐いかよーく考えてみよう.

ところで問題のベルファストの印象であるが,街角には自動小銃をもった武装警官が 立ち武装パトカーが走り回っている.そしていたるところで検問である. これなら爆弾でも仕掛けられなければトラブルに合いようがない. しかしこの威圧感はどこかなつかしさを感じる.警官から自動小銃をとればこれは 正しく我が成田空港のそれである.成田空港の厳重警戒に何の違和感も感じず ベルファストを危険地帯というのは北アイルランドに失礼かも知れない.

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(c) Tsuyoshi Yamamoto